大切な原稿ほど
とりかかるのに
遅れてしまう
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そんなに忙しいわけでもないのです。なのになぜか原稿を書きはじめるのは〆切ギリギリになってしまうものです。もっと早くから取りかかっておけばいいのに、先延ばしになる。で、さすがにもうこれ以上は延ばせないというところで、重い腰があがるという具合いです。これをなんとか治せないものかと、10年も前から意識しています。まあ、少しずつ改善はしていますが、完治はしておらず、ときどき古傷が痛む感じがします。
ぼくだけでありません。多くの書き手はこのブロックに頭を悩ませているようです。「書かなきゃいけない」とはずっと思っているのです。でも、こんなこと書いたら批判されるかも。間違っているかも。つまらないかも。期待に応えられないかも。このような不安が書き出す前からムクムクと膨らんできて、筆の動きをブロックしてしまいます。強烈な自己検閲機能が働くのですね。いうならば、アクセルを踏みながらブレーキも同時に踏んでいる状態。プスプスと煙が上がっている。ふとカレンダーを確認すると、もう〆切前日。ここで焦り、冷や汗が出るわけです。「さすがにもうまずい」なりふりかまわず書きなぐり、なんとか初稿を書き上げるのです。この時は、ブレーキを緩めることができたというよりも、ブレーキをぶっ壊すイメージでしょうか。どうにでもなれ、という感じ。ブレーキを壊して止まれなくなったとしてもかまうもんかと、開き直っています。
ギリギリまで動けないのは、やる気がないわけじゃないのです。むしろやる気がありすぎるから。たとえるなら、メイクに気合いを入れすぎて遅刻してしまう女子でしょうか。違うか。その発表の舞台を大切に考えているからこそ、ヘマできないからこそ、あがってしまう。つまりは、自分の実力以上の良い原稿を書きたい、という気負いなのです。
(約764字)
Photo: arvind grover