【第088話】想像はいつも大げさだから

先が見えないと恐怖は大きくなる

先が見えないと恐怖は大きくなるよね


「続ける世界」と「辞める世界」
奴隷はどこにもいないから

選択肢はあるんだよ

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会社をつぶしたら借金まみれで、奥さんにも逃げられホームレスに。そんなほとんど都市伝説を聞くことがあります。でも実際にそういう人に会って話したことはある人がどれだけいるでしょうか。正体の見えない恐怖というのは、実体よりも大きいものです。

「現状の仕事を続ける世界」と「辞める世界」。ぼくらの目の前には常にこの2つの世界が用意されています。前者の「続ける世界」は今までの延長線上なので想像できますが、「辞める世界」は想像がつきにくい。想像ができない世界のことは、恐怖が実際よりも大きく見えてしまうものです。それで比較的恐怖が小さく見える「続けるという選択」をほとんどの人は選ぶことになるのです。「辞める世界」を選んだ人から話を聞けば、想像ができるようになる。すると、「あれ? たいしたことないかも」と視界が広がっていくのを感じます。

「この会社を辞めたら他ではやっていけないので、しがみついてでも続けるしかないんです」そんなコメントをよく耳にします。続けるしかない。この「しかない」という状態は自由ではありません。続けたいんです、ならいいのですが。辞めることもできるけど、あえて続ける。この自分の意志で選んでいるという実感があれば、仕事への取り組み方も違ってきます。「しかない」という状態は、今の時代、本当は奴隷以外はありえません。現代には奴隷はいないことになっています。奴隷はどこにもいないはずなのに、「しかない」と考えてしまうのは、その人がパニックになっている証拠です。シマウマがみんなが走ってるから走るしかない、と走るのと一緒です。本質は「敵から距離を保つ」ということでした。距離を保っていれば、ゆっくり走っても、止まってもいいのです。

いつでも辞めることができる。この状態は精神衛生上、とてもいいものです。思い切った挑戦もできる。上司に本音をぶつけることができる。辞めても大丈夫であることを知っておく。辞めるという選択肢。それ以外でもいいですが、複数の選択肢があるほうが自由です。そのためにできる限り、いつも一次情報をつかまえておきたいものです。自分で現場に行く。当事者に会う。会社を辞めた人はいっぱいいるし、起業して幸せにやってる人もつぶした人もいる。実際どうでした? と聞くと、どちらも意外にたいしたことないことがわかります。

このオーディナリーも出版社をつくっています。すると「出版社なんて潤沢な資金がないと無理なんじゃないの」と言われます。難しいらしい、という話はよく聞きます。でもそれは二次情報なので、実際やってる人に「どうですか?」と聞いていく必要があります。聞いていくと、もしかしたら頑張ればできるかもしれないことがわかってきます。たしかに難しいのは確かだけど。経験者にインタビューをすることは、パニックにならずに自分の道を進むために効果的な方法なのです。

(約1190字)

Photo:  Bart Hiddink


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。