【第081話】作品には結界をはろう

「感性が合う人だけご覧ください」

「感性が合う人だけご覧ください」


準備ができている受け手にだけ
発信すれば
ミスマッチは起きない

 ———— 

大衆を相手にするテレビの現場でも、サランラップ化は起きていますね。クレームの電話が5,6本鳴っただけで、CMは中止になってしまうそうです。企業を好きになってもらうためのCMで、嫌われては元も子もないということですぐに中止にするのもわかります。でも、その基準が電話数本だけっていうのは、過剰じゃないかなと。全国で数本って、いたずら電話レベルですよね。ライバル企業の人がいじわるして、とかちょっとそのクリエイターに嫉妬している人が批判しているだけかもしれないし、誤差の範囲です。気にしたらきりがないレベルの批判でもあると、引っ込めてしまう。つくったクリエイターの意図を、もっと発信して欲しいけど、ごめんなさいだけでさらっと捨ててしまいます。

テレビは不特定多数の人がさまざまな状況でつけています。なので、批判を受ける可能性は高い。観たくて観ているわけではなくて、ただつけているだけというところに、嫌いな表現がきたら驚きます。準備ができていないので、不意打ちです。観たくないのに、無理矢理見せられた、となる。児童養護施設のドラマ『明日ママがいない』が批判されてスポンサーが全社降りるという異常事態になりました。テレビは誰が観てるかわからないから、とりあえず一番デリケートなところに基準を合わせておけば安全だ、となる。でも新しいことをしないと飽きられるし、つくり手としては、かなり難しい媒体だと思います。

本の場合は、タイトルと帯、装丁で結界を張ることができる。この本は大人向けですから、子どもは気をつけてね、と合わない人は避けてもらうことができます。それでも欲しい人はお金を払って買ってくれるのだから、それは無理矢理観させられた、とはならない。旅に出ると決めたのは読者の意志です。道中に、もしかしたら気に入らない出来事もあるかもしれないけど、それを含めて、旅ですよね。新しい経験をするのが旅です。それを望んで本を買っている。だから、クレームが少ない。思ったよりつまらなかった、という感想はありますが。旅に出ると自分で決めて来てくれる人たちに向けてメッセージや表現を発信したいし、いっしょにメディアをつくっていきたい。そっちのほうがぼくには向いてるなと思います。

 

(約956字)

Photo: moriza

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。