【第041話】思われるための本は書かない

「釣れると思われる人になる」 

「釣れると思われる人になる」 

なりたい人と
思われたい人では
志の高さがちがう

 

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「できるようになりたい」という気持ちは誰もがあるでしょう。できなかったことができるようになるのは快感です。そうやって文明は発展してきました。

ただ、おかしいなと思うこともあります。ビジネス書で、例えば『できると思われる人になる5つのルール』みたいな本も平積みで並んでいる。この「思われる」というのがポイントに注目いただきたい。実は多くの人は「できるようになりたい」わけではなく、「できると思われたい」だけなのかもしれない。この2つは似てるけど、全然違いますよね。後者は、思わせるだけでいい。まさか見せかけだけでいいとは思っていないだろうけど、人からどう思われるかが最大の関心ごとなんです。3年後に独立したいと言う人が、「できると思われる人になるための本」を読んでたらちょっとズレています。思われるだけでいいのでしょうか。

サラリーマンはそれでなんとなく通用してしまうかもしれないけど、これがたとえばボクサーだったら通用しないですよね。タトゥーを入れて見た目をいかつくして、威圧感を与えて見せても、試合のゴングが鳴ったらごまかしは通用しません。着実にトレーニングを積んできた相手にワンラウンドでKOされてしまいます。タトゥーのデザイン考えてる時間があるなら、トレーニングしたり上手くなるための勉強をしたほうがいいんじゃないのってことはだれにでもわかる。「できると思われる話し方」とか服装とか、それもいいけど、本当にできるようになるのが本質ですよね。

もっというと、できるようになるためには、「できると思われる人」にならないほうがいい。できると思われるというのは相対的な評価でしょう。同期の他の社員と比べてできるとか、まわりと比べてということですよね。できると思われたい人ってまわりと戦うんです。一番の切れ者であろうとするから、自分よりも賢い人がいたら目の色変えて相手の粗を探して論破しようとしたりする。

でも、本当にできるようになりたかったら、そうはしない。賢い人がいたら「何それ教えて」と寄っていきます。戦っても何も良いことない。仮に論破したって、どうなりますか。負けた方は根に持ちますから、いつか復讐されます。論破する人の近くにはだれも寄り付かなくなって、情報が入って来なくなります。歴史をふりかえっても、好戦的な切れ者というのは幸せそうな最期じゃないですよね。勝ち続けることはできないし、まわりから優秀な人が離れていくから、長く栄えることができないんです。

「それ知らない、教えて」と聞く人って一見おバカに見えます。でも、どんどん吸収して成長していく。熱心に聞くので、まわりもいろいろ助けて教えてあげようと思います。そして彼の回りには賢い参謀や先生がたくさん揃うようになる。結果、自分の望む目標に届くようになるというケースが多いわけです。本質を見誤らないようにしたいですね。

それは「できるようになるための本」なのか、「できると思われるための本」なのか。あなたがビジネス書を手に取る時にはその点をチェックしてからお買い求めくださいね。

 

(約1300字)


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。