【第018話】つながる言葉、へだたる言葉

「ほんとにこの列車でいいの?」

【インド旅篇】


列車での「ナマステ」

 

人に酔う、人当たりする。人が多いし、距離が近い。物乞いもくるし勧誘もくる。話す時も距離が近い。体がくっつくまで、息がかかるくらいまで寄って話す。しかも、彼らは顔は濃いし(ぼくもまあ薄くはないけど)、テンションが高いし、腕をつかんでフィジカルで当たって止めてくるので、こちらも振り払うのに体力を消耗する。

日本を発ってから道中いろいろ騙されたので、声をかけてくるインド人全員が詐欺師に思えてくるものだ。そういう積もり積もった怒りや悲しみで、心には壁ができてくる。インド人全体を嫌いにならないように、なんとか気持ちを切り替えようとした。

 

列車に乗った時のこと。キャリーケースを転がしながら通路を歩くんだけど、人がふさいで通れないことがあった。直前まで、トゥクトゥク(三輪タクシー)の嘘つき運転手と大ケンカしてたのもあって、通路の人を「邪魔だな」とピリピリしてしまいそうになる。いかん、いかん。彼らに罪はない。

「Excuse me」とか「Sorry」とか優しい言い方で、どいてもらう。
どくほうは、それはもう面倒くさそうにどく。

何人もどかしながら通路を歩きながら、思う。「Excuse me」よりももっと良い言い方はないかな。日本でも、ぼくは「すみません」より「ありがとうね」と言おうと思ってる。謝るよりは、感謝をしたほうがお互いに気持ちがいいものだ。

 

バラナシでは英語がわからない人も多い。かけ声を変えた。

「ナマステ〜、ナマステ〜!」

こんにちはーと言うようにしたんだ。そうしたら、反応が変わった。笑顔でどいてくれるようになった。座っている人まで「おお、ジャパ二? ナマステ!」と応じてくれたりする。

 

この場合のかけ声は、こちらの存在に気づいてもらえれば何でもいい。
「おい!」でも「ちょっとー!」でもいい。
もちろん、「じゃまだ、どけ」より「すみませんね」がいい。
「すみません」より「こんにちは、ありがとう」がいいよね。
「あなたに幸あれ」でも、「良い旅を」でも素敵だ。

 

言葉には2種類あって、人を元気にさせる言葉とそうでない言葉がある。
人とつながる言葉とへだたる言葉。
瞬間瞬間、どちらを選ぶかで、その先の旅のシナリオは変わってくる。
あなたの旅は笑いの連続か、争いの連続か。

 

(約930字)

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。