【インド旅篇】
列車での「ナマステ」
人に酔う、人当たりする。人が多いし、距離が近い。物乞いもくるし勧誘もくる。話す時も距離が近い。体がくっつくまで、息がかかるくらいまで寄って話す。しかも、彼らは顔は濃いし(ぼくもまあ薄くはないけど)、テンションが高いし、腕をつかんでフィジカルで当たって止めてくるので、こちらも振り払うのに体力を消耗する。
日本を発ってから道中いろいろ騙されたので、声をかけてくるインド人全員が詐欺師に思えてくるものだ。そういう積もり積もった怒りや悲しみで、心には壁ができてくる。インド人全体を嫌いにならないように、なんとか気持ちを切り替えようとした。
列車に乗った時のこと。キャリーケースを転がしながら通路を歩くんだけど、人がふさいで通れないことがあった。直前まで、トゥクトゥク(三輪タクシー)の嘘つき運転手と大ケンカしてたのもあって、通路の人を「邪魔だな」とピリピリしてしまいそうになる。いかん、いかん。彼らに罪はない。
「Excuse me」とか「Sorry」とか優しい言い方で、どいてもらう。
どくほうは、それはもう面倒くさそうにどく。
何人もどかしながら通路を歩きながら、思う。「Excuse me」よりももっと良い言い方はないかな。日本でも、ぼくは「すみません」より「ありがとうね」と言おうと思ってる。謝るよりは、感謝をしたほうがお互いに気持ちがいいものだ。
バラナシでは英語がわからない人も多い。かけ声を変えた。
「ナマステ〜、ナマステ〜!」
こんにちはーと言うようにしたんだ。そうしたら、反応が変わった。笑顔でどいてくれるようになった。座っている人まで「おお、ジャパ二? ナマステ!」と応じてくれたりする。
この場合のかけ声は、こちらの存在に気づいてもらえれば何でもいい。
「おい!」でも「ちょっとー!」でもいい。
もちろん、「じゃまだ、どけ」より「すみませんね」がいい。
「すみません」より「こんにちは、ありがとう」がいいよね。
「あなたに幸あれ」でも、「良い旅を」でも素敵だ。
言葉には2種類あって、人を元気にさせる言葉とそうでない言葉がある。
人とつながる言葉とへだたる言葉。
瞬間瞬間、どちらを選ぶかで、その先の旅のシナリオは変わってくる。
あなたの旅は笑いの連続か、争いの連続か。
(約930字)