じっくり見ないと気づかないかもしれません。小さな雫からできる河を眺めながら、今のご自身の周りとの関係や過去・未来とのつながりに想いを馳せてもらえたら嬉しいですね。私たち人間も、宇宙の長い歴史の中の一滴ですから。使い古しの白いTシャツを縫い合わせて大河に見立て、そこに7色の小さな雫が少しずつ少しずつ滴ることで、徐々に虹色の河ができていくという作品です。
BankART Artist in Residence
OPEN STUDIO 2015
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編集部は横浜に向かいました。さまざまなアーティストが、この3ヶ月間、BankART Studio NYK 内にスタジオを構え、作品を制作しています。現在、その制作中の様子を一般にも公開する「オープンスタジオ」が開催されているとのこと。われわれは潜入してきました。お目当てはもちろん、うしこさん(Artist)。うしこさんは、今月からオーディナリーでTOOLSエッセイを寄稿してくださっています。うしこさんとはどんな人物なのか。みなさんにもお伝えできればと思います。
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【イベント概要】
「BankART Artist in Residence OPEN STUDIO2015」 |
それでは、レポートしますよ。
「お、これは一体なんだろう?」深井さんはいろんな角度から見回し、インタビューが始まりました。
深井: 今回の作品のコンセプトはどういうものなのでしょう?
うしこ: この詩のままなのですが、「どんなものでも、すごく小さなものの集まりであり、その一粒一粒に価値がある」ということで、それをその数と時間の集積で見せられたらなと思って創りました。
『大河の一滴』 大きな河の 一滴 自分の体の 細胞 社会の中の 人間 宇宙にあるもの全て 気の遠くなるほどの 全部、小さなひとつから。 |
「この一滴がなかったら」、「このタイミングでなかったら」「ここにあるものが今あるように揃っていなかったら… 」きっと何かが違っていた。その場、その時、その条件でだからこそできる作品というものをここ数年では創っています。諸行無常、一期一会、偶然のような必然の世界観と言いますか。
と言うのも、ここ数年の自身のテーマというか、頭の片隅には「宇宙の法則」「宇宙の仕組み」「大宇宙と小宇宙」というようなことが常にあります。今、私たちが目にしている社会の色んな事象や物事の関係性みたいなものって、ずっと上から全体を俯瞰して見たら、宇宙や自然の現象や摂理に置き換えて見ることができるのではないかなと感じています。
手塚治虫さんの『ブッダ』という漫画はご存知ですか?? 実は昨年、たまたま友人の家にあったこの本を手に取って読んだのですが、まさに自分がずっと感じていたことがたくさん描き表されていて、興奮してしまいました。その一部をご紹介しますが、その時の感動が、きっと今回の作品に繋がっているように思います。
「木や草や山や川がそこにあるように、人間もこの自然の中にあるからにはちゃんと意味があって生きている。あらゆるものと… つながりをもって…。もしおまえがいないならば何かが狂うだろう。おまえは大事な役目をしているのだ」©手塚治虫『ブッダ』
深井: なるほど。ではこのコンセプトをどのように今回の作品で表現したのでしょう?
うしこ: 今回の作品は、使い古しの白いTシャツを縫い合わせて大河に見立て、そこに7色の小さな雫が少しずつ少しずつ滴ることで、徐々に虹色の河ができていくという作品です。
使い古した布というのは、元々同じ素材、同じ色であったとしても、その使われ方や年月によって微妙に色が違っています。それ自体が既にこれまでの時間や経験の集積を物語っていて、ただの「布」という物質ではなく、それぞれに背景を持った役者のように感じます。そして、その役者である布を一針一針、手縫いで縫い上げました。そこには、一目一目の痕跡やその時間の痕跡(実際に、半月ほどはただひたすら縫いの作業をしていました)、縫い手である私の運針の痕跡が表れています。もしミシンで行ったならば、他の人が行ったならば、それはそれで全然違うものが出来上がっていたでしょう。
【映像】雫が落ちる瞬間
そして、そこに小さな雫が滴り続けるという。ゆっくりですし、小さい雫なので、じっくり見ないと気づかないかもしれません(笑)。初日に来られた人と最終日に来られた人では見られる状態が違うので、感じることが違うかもしれませんね。私個人の想いとしては、その小さな雫からできる河を眺めながら、今のご自身の周りとの関係や過去・未来とのつながりに想いを馳せてもらえたら嬉しいですね。私たち人間も、宇宙の長い歴史の中の一滴ですから。
深井: 作品をつくる際に気にしていることはありますか?
うしこ: そうですね、単に「美しいもの」「きれいなもの」ではなく「妙なもの」を表したいなと思っています。というのも、以前私は5年ほどまったく創作活動を行っていない時期がありました。それは、言葉も出なくなるような美しい風景や、驚くほどよくできている自然の摂理を前にした時に、自分が何かを創ることが作為的に感じてしまい、彼らの前では自分がやれることはないなと思っていたからです。
ですが、5年ほど経って、また何か「出したいな」と思い始めた時、「確かに自然の美しさには敵わない。だけど、人間の手が加わることでできる “妙なもの” がきっとあるのではないか。自然だけでも人間だけでもできない、その間にあるモヤっとするようなものを創りたいな」と考え、今に至っています。なので、水が布に吸い上がっていく原理に人の手を加えて作品にしたり、今回のような古びた感や雑さ、人間臭さみたいなものは排除せずに、汚さや不快さの一歩手前というか、少し同居しているぐらいのものにしています。
深井: 妙なもの。ぼくも惹かれます。今後のうしこさんの作品も、オーディナリーでの寄稿も楽しみ!
(インタビュー終了)
以下は、写真や映像で振り返ります。
【映像】BankART AIRトーク2015 アートファミリー (うしこさんトーク部分は 5:35より )
【映像】ライブペインティング「アートファミリー 童心に返りたい」(モニターで上映されていた)
【おまけ】 他にも素敵なアートが盛りだくさんです。一部をちょっと紹介します。
以上、現場からでした。 ご興味のある方は観にいってみてくださいね。(編集部)